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2010年10月10日

たまにはドキュメンタリー

実はマラヤーラム語ワールドではドキュメンタリーのディスク化というのも結構あるのだ。大概は有名なお寺の祭りの記録とかで、呑気なのが多いが、今回紹介するのは極めつきの良作。資料性が高く、何よりも英語字幕つきなのだ。

cvCinemayude.jpgCinemayude Kalppadukal (Malayalam - 2008) Dir. M R Rajan

Cast:
Shobana Parameswaran Nair (Still photogrpaher, Producer) 〈1930?-2009〉
A Vincent [Aloysius Vincent] (Cinematographer, Director) 〈1928-〉
M T Vasudevan Nair (Script writer, Director) 〈1934-〉
K Ragavan (Music director) 〈1914?- ※かなり疑わしい生年〉
Madhu (Actor, Director) 〈1933-〉
P Jayachandran (Playback singer) 〈1944-〉

ランタイム:2時間46分

タイトルのゆれ:Cinemayude Kaalppaadukal
タイトルの意味:Footprints of Cinema

DVDの版元:Moser Baer
DVDの字幕:英語
DVD障害:焼きが甘く不安定なため、データ吸出し&デュープの上鑑賞

しばらく前のポストでは、「信じがたい事だが、主にディスクで印度映画を鑑賞してる在日日本人にとって、マラヤーラム映画は一番早く、そして安価に最新作がチェックできるものになっていたのだった」なんていうことを書いたのだが、これは現象の片面。もう一方で、「主にディスクで印度映画を鑑賞してる在日日本人にとって、マラヤーラム映画は古い時代に遡ろうとしてもかなり難しいものなのだ」という事実がある。過去7,8年の間、乏しい小遣いが許す範囲内でこつこつディスクを買ってきたのだが、どう頑張っても1980年代初頭、つまりマンムーティとモーハンラールがスターダムに登場した時代より以前に遡れないのだ。手持ちDVDの中での例外は、歴史的名作として名高い Chemmeen (Malayalam - 1965) Dir. Ramu Kariat を筆頭にした5本だけ。Chemmeen 以外は、60年代ものが2本、70年代ものが2本。VCDもアリとすれば、1970年代ものを中心に選択肢は広がるが、正直言って鑑賞は結構辛い。タミル、テルグ、カンナダ映画なら1950年代までは普通にDVDで遡れるのと比べると大した違いだ。実際これまで自分が鑑賞したものを振り返っても、字幕つきでは Neelakkuyil (Malayalam - 1954) Dir. P Bhaskaran & Ramu Kariat があって、それから上述の65年 Chemmeen に飛んで、そのあと Kelkkatha Sabdam (Malayalam - 1982) Dir. Balachandra Menon までブランクがある。こんな状況だから、いくら2008年公開のマ映画を(ほぼ)全部潰したからって、「マ映画とは~」みたいな事を知った気に書くのが憚られるわけなんよ。

ランドマーク作品のひとつである Neelakkuyil の製作者たちについては、以前にこことかここで「オタクたち」などと書いたのだけれど、その時は名前も碌に知らなかったし、そもそも存命中だとは思ってもいなかった。ところが、一部のスタッフが2008年時点では存命で、このドキュメンタリー中で元気にインタビューに答えていたのだ。

パラメーシュワラン・ナーイルは1930年ごろトラヴァンコール地方南部で生まれた。幼年時代に最新の娯楽としてケララにやってきた活動写真に惹かれ、高校時代には級友のアブドゥル・カーダルと共に映画熱を語り合った。このアブドゥル・カーダルは、後にプレーム・ナシール(1926-1989)の芸名で俳優業に進み、最初のスーパースターとしてマラヤーラム映画史を飾ることになる。

パラメーシュワラン・ナーイルはやがてスチル写真撮影の技術を身につけ、トリシュールで「ショーバナ・スタジオ」という写真館を主宰し、映画界にかかわるようになる。スチルカメラマンとしての初仕事は1954年の Neelakuyil だった。60年代には Roopavani Films を立ち上げ、プロデュースに手を染める。プロデューサーとして関わった作品には、Ninamaninja Kalpadukal (Malayalam - 1963) Dir. N N Pisharady、Murapennu (Malayalam - 1965) Dir. A Vincent、Nagarame Nanni (Malayalam - 1967) Dir. A Vincent などがあり、それらは常にマラヤーラム映画界に新風を吹き込むものだった。

パラム兄さん(Paramu Annan)と呼ばれて慕われた彼の周りには有能なスタッフが多く集まったが、その制作活動には常に資金難が付きまとっていた。そんな中で彼が送り出した作品群には、今日のマラヤーラム映画の特徴となっている要素が初めて現れたのだった。すなわち、文芸作品に基づいた脚本、屋外ロケを多用した自然主義的リアリズム、業界用語で言うところのネイティヴィティの重視である。

このパラメーシュワラン・ナーイルが中心となって、当時彼と共に映画制作に携わっていた4人が加わり、思い出話を語るというだけの本作、しかし彼らが携わった映画を一本でも見ていればとてつもなく面白い。当時のロケ地の再訪、また潤沢に挿入される実作品の映像も興味深い。制作者の側はセンチメンタルな効果を狙って老人達をアップで追うが、当人達は期待されている涙もこぼさず淡々と語り続けるところに好感が持てる。そして本作公開の翌2009年5月にパラメーシュワラン・ナーイルは他界している。まさにギリギリ滑り込みセーフだったわけだ。

印象的な挿話・発言は幾つもあるが、最後の10分ほどになって登場する、マ映画最長老俳優(この人を別にすればだが)マドゥーの話が、今日に直接繋がっている面もあって目ざましく興味深いものがあった。

Bhargavi2.jpgmadhutheactor

そのマドゥーが語った以下のフレーズには、訳もなくじ~んときたんだよ。

But the poverty had its own charm.(俳優デビュー作となったNinamaninja Kalpadukal の時代を回顧して)

嗚呼、椰子國新天堂樂園!

【付録:本文中でリンクした以外のレビューなど】
The Hindu:Journey through memories
The Hindu:Under the arc lights for four decades (Madhu)
The Hindu:Unmatched record (Madhu)
Malayalamganangal:K Raghavan
Kerala Calling:In memory of golden times (Neelakuyil)
The Hindu:A milestone movie (Neelakuyil)

投稿者 Periplo : 17:26 : カテゴリー バブルねたkerala
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2010年10月06日

資料系アップデート1010

読書の秋に濃ゆ~いサウスな一冊。

cvCinemasSouthIndia.jpgCinemas of South India - Culture, Resistance, and Ideology

編者:Sowmya Dechamma C.C, Sathya Prakash
版元:Oxford University Press
発行:2010年(初版)
版型:A5版
頁数:256

主な販売サイト:Amazon.comほか。探せばもっと安く手に入れられるはず。
定価:£30.00

タイトルの Cinemas が複数形になってるところがミソ。同名のセミナーにおいて発表された複数の学者による論文の集成なので、内容は(それにクオリティも)バラエティに富んでいる。特に州単位の地方政治と映画との関係について充実。'Cinema as a Site of Nationalist Identity Politics in Karnataka' なんてタイトル、ぐっと来るじゃありませんか。マラヤーラム映画界のコメディアン・シュリーニヴァーサンが主演・監督した Chinthavishtayaya Shyamala (Malayalam - 1998) Dir. Sreenivasan の分析なんて、オオッってなもんでしょう。日本でも見た人の多い有名なリメイク輪廻の踊り子さん映画をジェンダー論で巡ってみたり。詳しい内容一覧は版元サイトの Table of Contents でどうぞ。

まだ全部読んじゃいないけど、面白いコンテンツがあればこの先も当ブログ上でちょぼちょぼ紹介してくかも。

投稿者 Periplo : 03:55 : カテゴリー バブルねたsouth
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2010年10月03日

レビュー:Swa.Le

この先、サービス残業の挙げ句に終電逃して歩いて帰宅するようなときには、このシーンを思い出すかもしれない(笑)。しょっちゅう思い出すことになるかもしれない(泣)。

SwaLe01.jpg

それほど華々しく公開されたわけでもなく、大ヒットも記録しなかったが、90年代マラヤーラム映画の良い部分を蘇らせたような、ちょっと懐かしい感じの佳作に出会うことができた。

cvSwaLe.jpgSwa.Le (Malayalam - 2009) Dir. P Sukumar

Cast: Dileep, Gopika, Nedumudi Venu, Salim Kumar, Jagathy Sreekumar, Harishree Ashokan, Innocent, Ashokan, Ganesh Kumar, KPAC Lalitha, Vijaya Raghavan, Edavela Babu, Kunchan, Manikuttan, Sreejith Ravi, Sadique, Madhu Warrier, Nishant Sagar, Guruvayoor Sivaj, Kalaranjni, Sona Nair, T P Madhavan, Kochu Preman

タイトルのゆれ:SwaLe, Swa Le, Swantham Lekhakan
タイトルの意味:Staff Correspondent

DVDの版元:Moser Baer
DVDの字幕:英語
DVDの障害:現在のところ特になし
DVD入手先:RealCinemasMaEbagBhavani など

【ネタバレ度30パーセントの粗筋】
1980年代末のケララ中部、インターネットも携帯電話もない時代。地方語新聞王国ケララを支える末端の記者達は毎日のように特ダネを求めて互いにしのぎを削っていた。弱小新聞ジャナ・チンタの地方支局の若手記者、ウンニ・マーダヴァン(Unni Madhavan / Dileep)もその一人。相棒カメラマン、怠け者で不真面目なくせに時おり哲学的なことを呟くチャンドラ・モーハン(Chandra Mohan / Salim Kumar)とコンビを組んで、ローカルニュースを追いかけて東奔西走していた。彼には周囲の反対を押し切って結婚した愛妻ヴィマラー(Vimala / Gopika)がおり、臨月の体なのだが、恋愛結婚が理由で親族とは連絡を断ってしまっているため、妻はただ一人で家にいる。家計も非常に苦しく、ジャーナリスト稼業だというのに、地方都市のそのまた郊外の不便で寂しい場所での借家住まいに耐えなければならない。

どちらかと言えば取るに足らないニュースを追いかけていたウンニを、ある日大きなショックが襲う。マラヤーラム文学界の巨星パラリ・シヴァシャンカラ・ピッライ(Palazhi Sivasankara Pillai / Nedumudi Venu)が心臓発作で倒れて危篤という知らせが入ってきたのだ。報道デスクのカイマル(Kaimal / Innocent)を始めとする会社上層部は色めきたつ。死にゆく文豪の刻一刻を報道し、さらに彼が没した後に追悼特集を組めば売り上げ増は間違いないからだ。カイマルはウンニに、パラリの家に張付き、その死の瞬間を他のどの新聞社にも出し抜かれることなくレポートし、さらに情感溢れる追悼記事を書くよう命じる。これはウンニにとっては残酷な業務命令だった。彼は幼時パラリの近所に住んでおり、パラリの薫陶を受けて文筆の道に進んだのだった。今日のウンニがあるのは全てパラリのお蔭だといっても過言ではない。懊悩するウンニにさらに別の問題が持ち上がる。いつ容態が急変するかわからないパラリの家に詰めきりになることによって、初産の不安から心身ともに弱っている妻がさらに不安定な状態に追い込まれてしまったのだ。敬愛する恩師の死の床に土足で立ち入ることへの嫌悪、一人ぼっちに耐えている愛妻を思っての心痛、会社への反発とでウンニの心は張り裂けそうになる。(粗筋了)

SwaLe06.jpgSwaLe07.jpg


【とりとめのない感想】
自分でも不思議なくらいノスタルジックな余韻がいつまでもいつまでも残ってるんだ。ジャーナリストが主役の映画ってたら、ニューデリーが舞台で銀縁眼鏡の細面が出てくるものだと思ってしまいそうだが、いきなりケララのド田舎が舞台。主人公のウンニの住む家は川に面していて(下左写真)、毎朝渡し舟で通勤。渡りきった先はというと、やっぱりド田舎(下右写真)。こういうのは普通は苫屋とは言わない、隠れ家リゾートって言うがな。ちなみにロケ地は、近年のマラヤーラム映画ではとても人気のあるイドゥッキ郡トドゥプラの郊外、パラプラ(Purapuzha)という小村らしい。80年代末、つまり91年の経済開放の少し前という設定も絶妙。

SwaLe02.jpgSwaLe03.jpg

そういう牧歌的なセッティングの中にありながら、テーマは結構深刻なのだ。主人公は、幼時に文(ふみ)の世界への憧れを植えつけてくれた恩人である文豪の死の床に寄り添いながら、正味なところではその死を今か今かと待つ状況に追い込まれるのだから。家には不安定な状態の妻が彼を待っていて、できることなら他のスタッフに肩代わりしてもらって帰宅したい。しかし文豪との個人的な絆ゆえに、彼は置き換え不能な人材になってしまい、報道デスクは戦線離脱を頑として認めない。デリーが、あるいはカルカッタが舞台の映画だったら、かなり沈痛で内省的なトーンになってただろう。だけどそこがマ映画、のほほ~んとエエ湯加減なんだわ。瀕死の文豪が臥せっているのが、これまた都会の病院じゃなくて人里離れたタラワッド(大邸宅)。近所にはトタン掛けのチャイ屋が一軒あるきり。そこでチャイを啜りながら記者達はXデーをただ待ち続け、見た目はピクニックみたいになってしまうのだ。余談ながらこの文豪というの、名前からしても明らかに『えび』の作者として名高いタカリ・シヴァシャンカラ・ピッライをモデルにしてるんだろうね、別に伝記的な描写をしてるわけじゃないけど。

脱線から戻って。恩師への思慕の念、職業人としての誠意、そして家庭人としての責任、三つ巴のジレンマからウンニがどのような成り行きで解放されるのかというのが本作のクライマックス。とても笑い事ではないのだが、悲劇が極まって喜劇に転じる寓話のようで、爽やかな読後感。ニヒリズムを含んだ最終場面についてはレビューでも評価が分かれているようだが、まあいかにも「らしい」なあ、と筆者は肯定的に捉えている。

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演じ手達は端役に至るまでナイスなキャスティング。アンサンブルの妙味を楽しめる。とはいえやはり第一に書くべきは主演のディリープだろう。こういうペーソスを含んだヒーロー像をやらせたら今の椰子國でかなう奴はいないと思う。日頃の自意識過剰を押し殺して演じた、やられっぱなしの若オッちゃんは良かった。これが結婚後カムバック作となったゴーピカも、見せ場は少ないながらも手堅い芝居で、じっと耐えるいじらしい妻を好演した。一番印象に残ったのは悪役的性格の強い報道デスク役のイノセント。主人公に対して「お前の嫁が子供を生んだら一面ネタになるのか?臨終の文豪に張り付け!」なんていう鬼畜な台詞を平然と吐く、頭のネジが数本足りないイエロージャーナリズムの権化を、怖いくらいに嬉々として活写。日頃はアクの強さで頭ひとつ抜きん出ていることの多いジャガティ先生も、ここではちょっと霞んで見えたくらいだ。俄か景気に舞い上がって、文豪の家の隣にある自分のチャイ屋をスターつきホテルにしようなど夢想する愉快なキャラで、もちろん悪くないだけどね。

撮影監督としてキャリアを積み、本作で監督デビューしたPスクマールについては、今後も注目して行こうと思っている。

付録:どん詰まりのラストシーンにマラヤーラム語の文章がかぶさるのだが、これに英語字幕がついていない。気になって仕方がないので、捩り鉢巻のガリ勉で大意を訳してみた。ネタバレでも構わないという方はこちらを参照のこと。結局大したことは言っちゃいないんだけどね。

参考
http://en.wikipedia.org/wiki/Swantham_Lekhakan
http://entertainment.oneindia.in/malayalam/top-stories/2009/swantham-lekhakan-real-life-041109.html
http://old.musicindiaonline.com/ar/i/movie_name/12259/1/
http://www.indiaglitz.com/channels/malayalam/preview/11264.html
http://movies.rediff.com/report/2009/oct/30/south-malayalam-review-swa-le.htm
http://sify.com/movies/malayalam/review.php?id=14917466&ctid=5&cid=2428
http://kerala9.com/news/swale-review-swantham-lekhakan-user-reviews/
http://dileepfansclub.co.cc/news/2009/swantham-lekhakan-first-schedule-completed/

投稿者 Periplo : 00:45 : カテゴリー バブルねたkerala so many cups of chai
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