« 2011年05月 | メイン | 2011年07月 »

2011年06月11日

再編再録:カンナギは正義を求める(3)

今から7年前に(既に消滅してしまった)雑記帳に、「どうしてタミル映画には古典叙事詩『シラッパディハーラム』を扱ったものがないのか」などと書いたことがあるのだが、その後に書籍資料やネット上の証言が少しずつ手元に集まり、分かってきたこともある。7年もかけてほんの僅かばかりの前進。

カンナギの物語を映画化したものは、トーキー以降の制作でプリントが現存しているものとしては、これまでに3作があることが分かった。いずれもモノクロ映画。

1.Kannagi (Tamil - 1942) Dir. R S Mani *Pasupaleti Kannamba as Kannagi
■文献:
インド映画百科事典:P.294
タミル映画百科事典:Part28-P.30
タミル映画精選:Vol1-P.58
■メディア:DVDがリリースされているらしい、未入手

2.Poombuhar (Tamil - 1964) Dir. P Neelakanthan *Vijayakumari as Kannagi
■文献:
インド映画百科事典:掲載なし
タミル映画百科事典:紹介なし、Part18-P.15に作品名のみ記載
タミル映画精選:掲載なし
■メディア:Raj Video Vision (ここの子会社)から何らかのビデオが発売されている模様、未入手
■タイトルはカンナギ物語の前半の舞台となったチョーラ王国の貿易都市の名

3.Kodungallooramma (Malayalam - 1968) Dir. M Kunchacko *K R Vijaya as Kannagi
■文献:不明
■メディア:Harmony Videos よりVCD、カバーイメージはこちら
■タイトルは(カンナギを祀る寺院があるケララ中部の町)コドゥンガルールの女神という意味

もちろんこれで全部という確証はない。手持ちの資料で確認できるのがこれで全部ということだ。それからカンナギのモチーフが部分的に使われたり、カンナギの名前が意味ありげに言及されたりする作品となるとかなりの数になる。これについては後日改めて紹介したい。

ネット上の資料も多くはない。一番情報量が多いのが、ケララ人評論家Bヴィジャヤクマール氏による、The Hindu に掲載のエッセイ Kodungalloramma - 1968(同じ内容は氏の個人ブログにも掲載されている)。タイトルこそ上の3を示しているが、実際はサイレント時代の作品群にまで言及のある、充実した「カンナギ映画」史となっている。

当ブログの筆者がこれまでに全編を実見できたのは3のマラヤーラム版のみ。ヴィジャヤクマール氏によれば、これは1の1942年タミル版のリメイクで、質的には名作の誉れ高いオリジナルには遠く及ばないものだそうだ。オリジナルでのパスパレティ・カンナンバのヒロインはカンナギその人を現前させたかのようだと喝采されたという。

比較して論評することが叶わない筆者ではあるが、たしかに3のヒロイン「微笑みの女王」KRヴィジャヤは、熱演しているもののやはり優しすぎるように思える。とはいえ本作は、古代叙事詩のストーリーをなぞりながらも、末尾ではカンナギを祀るケララ州中部沿海部コドゥンガルールのバガヴァティ寺院の縁起で終えるなどという(おそらくマラヤーラム版独自の)工夫が施されており興味深い。

ここで気になるのが、2の1964年タミル版である。脚本担当は、あの(2011年5月までタミルナードゥ州首相だった)Mカルナーニディ。気合いの入った出来映えが予想されるのだが、上に挙げたように書籍資料上では(ウェブ上でも)ほとんど黙殺されているのだ。

上に紹介したヴィジャヤクマール氏によれば、

In 1964 Kannagi's story was remade in Tamil as ‘Poompuhar' with M. Karunanidhi's script and dialogues. However, the performance of Vijayakumari as Kannagi did not impress. The film flopped. The impressive dialogues written by Karunanidhi for the film is reflected in those written by Jagathi N. K. Achari for the Malayalam film ‘Kodungallooramma'. The film was directed by M. Kunchacko. (The Hindu, Kodungalloramma - 1968 より)

なのだそうだ。そんなにも2はヘボいものだったんだろうか。1968年のマラヤーラム版は、スクリプトの一部では1964年の2の影響を受けながらもさらにそのオリジナルである1942年の1を受け継ぎ、同時に1914年から南インド各地で上演されていた「ミュージカル・オペラ」‘Kovalan Charitham' を始めとする舞台劇からも要素を取り込んでいるらしい。1~3は同じ叙事詩を元にしていながらそれぞれに異なった造りになっていたのだろうか? 

なんてことをぼや〜んと考えていたら見つかったのが、冒頭に埋め込んだ2の1964年タミル版のクライマックスシーンのビデオ。

…いや、鬼気迫るとはこのこと。ビリビリと来るような凄いシーンじゃないですか。ヴィジャヤクマーリという女優は初めて見たのだけれど、この芝居の前にはやっぱりKRヴィジャヤは霞むわ。なぜこれが評価されなかったのか。長々とした演説を取り込んだDMK映画風のスタイルが既にこの時点では観客の嗜好に合わなかったのだろうか。しかしこのヴィジャヤクマーリの演技すら、「さして印象的なものではなかった(上の引用文から)」というのだから、1942年版のパスパレティ・カンナンバのカンナギはいかばかりのものだったのだろう。

やっぱりこれはどうしても観てみたい。ディスク探しに何年ぶりかにチェンナイを訪れるべきなのだろうか、などとマジに考えてしまうのだった。

Kodungalluramma3.jpgKodungalluramma2.jpg
Kodungalluramma4.jpgKodungalluramma1.jpg
Kodungallooramma (Malayalam - 1968) より

投稿者 Periplo : 16:52 : カテゴリー バブルねたtamil
| コメント (0)