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2012年02月28日

レビュー:Chaappa Kurish

マラヤーラム映画史上(印度映画史上?)初のiPhone映画。いや別にあいほんで撮ったって訳じゃないけど。

ChappaKurish01.jpg

アマル・ニーラドのもとで撮影監督をつとめ(Big B などを担当)、本作で監督デビューしたサミール・ターヒルはインタビューで以下のように語っている。

“I am not trying to convey any particular message through the movie. It’s a pure commercial entertainer. But if the viewers get something out of it, I will be more than happy,” Sameer says. (Yentha.com 記事 Behind The Camera: Chappayum Kurishum Screenil より)

なかなか潔い言明だね。しかし32歳のデビュー監督の言葉とは裏腹に、観た後にかなり色々考えさせられたよ。持てるものと持たざるものとの間の絶対的な距離についてではなく、マラヤーラム映画の将来についてだけど。

cvChappaKurish.jpgChaappa Kurish (Malayalam - 2011)

Director:Sameer Tahir
Cast:Fahad Fazil, Vineeth Sreenivasan, Ramya Nambeesan, Roma Asrani, Niveda Thomas, Jinu Joseph, Sunil Sukadha, Dinesh Panicker

原題:ചാപ്പാ കുരിശ്
タイトルの意味:Head or Tail ※But I wanted it in the colloquial lingo.” To one's amusement he adds "It's called 'Changum Chappayum' in Kollam, 'Thalayum Valum' in Kottayam, 'Raja Kozhi' in Thrissur and 'Chaappa Kurish' in Cochin. And I belong to Cochin." (Yentha.com 記事 Behind The Camera: Chappayum Kurishum Screenil より)
タイトルのゆれ:Chappa Kurish, Chaappa Kurishu, Chaappakurish

DVDの版元:Central
DVDの字幕:英語
DVDの障害:特になし
DVDのランタイム:約2時間11分
DVD 入手先:Webmall IndiaBhavani DVDMaEbag など

参考レビュー集成:http://periplosjottings.blogspot.jp/2012/09/chaappa-kurish-malayalam-2011.html/a>

【ネタバレ度40%の粗筋】
舞台はコーチン。建設会社のエグゼクティブであるアルジュン(Fahad Fazil)は、裕福な家庭に生まれ、ブームに沸く建設業界での競争に果敢に挑む企業家精神の持ち主である。一方で、選良意識の高い彼は、目下の人間・無用とみなした人間に対しては、挨拶やねぎらいの言葉をかけることすらしないような冷淡なところがあった。両親が決めた婚約者である資産家の令嬢アン(Roma Asrani)とつきあいながらも、会社の部下のソニア(Ramya Nambeesan)と密かに肉体関係を持っていた。

フォート・コーチンの惨めなアパートに住むアンサーリ(Vineeth Sreenivasan)は、エルナクラムのスーパーに勤め、さして多くもない稼ぎの中から田舎に仕送りしている。職場ではトイレ清掃などの単純労働のみをあてがわれている。彼は教育程度が低いだけでなく元来の性格にも鈍重なところがあり、同僚達から馬鹿にされ、雇い主からは屈辱的な叱責を浴び続けながら毎日を送っていた。

ある日、アルジュンはふとした遊び心から、自室に訪ねて来たソニアとの情事の一部始終をアイフォンで録画する。その後、ソニアはアルジュンとアンの挙式が迫っていることを偶然に知り、アルジュンを詰るが、彼はソニアとの結婚の約束をした覚えはないと突き放す。公衆の面前で取り乱したソニアを宥めようとしているうちにアルジュンはアイフォンをうっかりと落としてしまう。それを拾ったのはアンサーリだったが、彼は拾得物をこっそりポケットにしまい、その場を足早に後にする。落とし物に気づいたアルジュンの煩悶と焦燥の日々がそこから始まる。(粗筋了)

ChaapaKurish02.jpg

【寸評】
以前に
Cocktail (Malayalam - 2010) Dir. Arun Kumar を紹介する際に形容した言葉を再度使うと、本作もまた「ごく平凡な都会人の生活スケッチと思われるところからスリリングなドラマを生じさせる、よく考えられた脚本」「担い手となっているのはデビュー、あるいはデビューから2、3作の新人監督」「知名度はそこそこあるが大スターとまではいかない俳優を巧みに配置し(つまり中規模の予算ということ)、都会を舞台にしてスリラー的な展開をする」といった共通の特徴をもつニューウェーブ的な流れの中の一本といえよう。いくつかの項目について留保つきながら、インテリ系の観客からはそれなりの評価を受けた。

そして例によって犯罪成分を含んだスリラー。しかしいくら流行だからといって、先が見えきった定型的展開&ソングやコメディなど独立パーツの組立て工法の映画ばかりを作ってきたケララ人が、緊密な金縛り系スリラーをゼロから急に作れる訳がない。なのでプロットやストーリーは他所から借りてくることになる。本作も、スマートフォンに録画された激やばビデオを巡る攻防という点で Handphone (Korea - 2009) Dir. Kim Han-min からヒントを貰っているという。金持ちの死活の鍵を貧乏人が手にしてしまったというシチュエーションは Taxi No.9211 (Hindi - 2006) Dir. Milan Luthria ともよく似ている(これ自体がハリウッド映画の非公式リメイクだという)。だけど、こういうのを見つけて「モラルのないパクリ」と切り捨ててしまうだけでは面白いとこを取り逃がしてしまうことになる。問題はローカライゼーションが成功してるかどうかということ。

ローカライゼーションとなると、ここにもう一つの問題が立ちはだかってくる。つまりケララには都市型スリラーにふさわしいメトロポリスというものが、現状ではどう贔屓目に見ても存在しないということ。そこを無理に作ろうとすると舞台は必然的にコーチンとなる。もちろんコーチンにも都市ならではのゴミ問題だの交通問題だのはあるけれど、都会的なクールさや酷薄さがあるかというとねえ。なもんで、そのへんのギャップをカバーしてアーバンでスタイリッシュな雰囲気を出すためにヴィジュアルワークに傾斜することになったりするのだ。本作でもその傾向は認められたが、全体的なバランスを崩すほどの変な凝り方にはなってなかった、幸いにして。

ケララらしさが感じられたのは、金持ちと貧乏人との間の距離の設定だね。金持ちの方は、印度全域に生息している鼻持ちならない&躾けが全くなってない自己中野郎の典型だけど、その身の回りからは目も眩む想像を絶するような富と権力は感じられない。貧乏人の方も、愚鈍で無気力で「貧困は自己責任」論者をほくそ笑ませるような人物像になってるけど、ともかく定職があり住処も持っている。両者を分け隔てる最も分かりやすい生活資材がアイフォンとガラケーなんだな。お宝の詰まったアイフォンを拾った貧乏人は、しかしその中身を見るすべを知らない。彼にできるのは着信に応対することと電源を切ることだけ。バイブ設定に切り替えるやりかたすら分からないのだ。この部分が、ネタもとの韓国映画にはなく、本作で観客を引き込ませる最大のポイントなのだと思う。

なお本作では、マラヤーラム映画としてはおそらく初めて、長々としたフレンチ・キスが遮蔽物なしに映された。ほとんどのレビューがそのことを取り上げているが、不思議なことにさほど非難も賞賛も引き起こさなかったようだ。同年公開の Salt n' Pepper (Malayalam - 2011) Dir. Aashiq Abu のソング中でのカジュアルなチョロっとしたキスシーンが一部で妙に持ち上げられたのと対照的に(というかこの小品自体がどうしてこんなにケララの衆に馬鹿ウケしたのかさっぱり理解できないのだが)。

本筋からはズレるのだが、しかし本作がお得だと感じたのは主人公アルジュンの友人に映画の吹き替え声優という設定の人物が出てくる(脚本上若干の必然性があるのだ)点。その人物が仕事してるとこが描写される短いシーン(ネタバレでも構わない人のみこちら参照)、最近のマ映画界の状況がクッキリ出ててかなり笑えるよ。ここにレビューをあげたのは実はこれを言いたいためだったりして。

ChaappaKurish03.jpgChaappaKurish04.jpg
まあそれと、金持ちが吠え面かかされてるところ見るだけで飯ウマ〜、って人にもお勧めだすね。

投稿者 Periplo : 13:32 : カテゴリー バブルねたkerala so many cups of chai

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