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2012年05月20日

収集癖:ナーラダ仙(4)

こっちの雲海はなかなかサイケで現代的だ。
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以前のポストでは、ナーラダ仙が神話映画の中では掻き回し屋として重要ではあっても、主役になることはほとんどないと書いた。しかし本作では限りなく主役に近いナーラダ仙が、凄い豪華キャストで楽しめるのだ。冷静に見れば主役と言い切るのにはちょっと無理があるけれど、「無邪気な顔してアチコチ遊びまわり、至る所に不和を撒き散らす」というナーラダ仙の本領が充分に発揮されていて見応えがある。

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Saraswathi Sabatham (Tamil - 1966) Dir. A P Nagarajan

原題:சரஸ்வதி சபதம்
タイトルのゆれ:Saraswathisabatham, Saraswathy Sabatham, Saraswati Sabadham, Saraswati Shabatham, etc.
タイトルの意味:Saraswathi's vow

Cast : Sivaji Ganesan, Gemini Ganesan, K R Vijaya, Savitri, Padmini, Devika, Sivakumar, Chittoor V Nagaiah, Nagesh, Manorama

DVDの版元:Ayngaran, AP International, Thangamalar ほか
DVDの字幕:英語
DVDの障害:特になし
DVDのランタイム:約2時間46分
DVD 入手先AP International, Ayngaran ほか

参考レビュー集成http://periplosjottings.blogspot.jp/2012/09/saraswathi-sabatham-tamil-1966.html

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【ネタバレ度70%の粗筋】

天界のとある平穏な日、ナーラダ仙(Sivaji Ganesan)はブラフマー神妃のサラスワティ(Savitri)、ヴィシュヌ神妃のラクシュミ(Devika)、シヴァ神妃のパールヴァティ(Padmini)のもとを順番に訪れる。3女神はそれぞれ、学問と芸術・富と権力・力と勇気を司っているのだが、ナーラダはその3つの徳性のうちのいずれが最も重要かと議論を吹きかけて彼女達を挑発して争わせる。サラスワティは聾唖で知恵遅れの若者に恩寵を与えて大詩人(Sivaji Ganesan)に仕立て上げる。ラクシュミは乞食の少女を選び出し、女王(K R Vijaya)として即位させる。パールヴァティは生まれついての臆病者を一瞬で剛力の勇者に変え、将軍(Gemini Ganesan)とする。将軍は女王の宮廷に伺候することになり、詩人もまた女王に招かれる。しかしこの3人は、自分以外の優れた能力を持つ人間への敬意が全くなく、つねに主導権を握ろうと争いを繰り返す。女神達の代理戦争を見るに見かねて、ブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァはやっと重い腰をあげて解決に乗り出す。(粗筋了)

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【寸評】
サウス神話映画の古典的作品をあれこれ渉猟し始めると、必然的に3人の俳優の主演作を重点的に見ることになる。カンナダのラージクマールと、テルグのNTRと、タミルのシヴァージ・ガネーシャンである。ジェミニ・ガネーシャンやANRの神話映画出演も少なくはないが主演作となると数が限られる。MGRはイデオロギー上の理由から意図的に避けていたと思われるため、神話映画の出演作はほとんどない(全くない、と言い切る確信がない)。ちなみに当網站では「ミソロジカル」と「バクティ/ディヴォーショナル」の区別は便宜的に棚上げする。インド人論者にはこの二つを厳密に区別する人が多いが、たとえば今回紹介作品のようなものの場合、どっちに分類しても収まりの悪い感じが残るからだ。とりあえず、神懸かった映画全般(ただしクリスチャンものを除く)を神話映画と呼んじまう程度の大ざっぱな話なのをご了承いただきたい。

で、古典的神話映画の3大巨頭。レパートリー的に重なる部分もかなりあるのだが、超人的でモニュメンタルなキャラクターを演じながらニュアンスがそれぞれに全然違う。ラージクマールはただもう高貴、NTRはただもう酷薄、シヴァージはというと、ただひたすらに晴朗で目出度いますらおぶり、「世の中の明るさのみを吸ふごとき」としか言いようがない。演技力を超えたところでクッキリとしたスクリーン人格(もちろんこれを実生活上の人格と同一視すべきではない)が出来上がって、何を演じても滲み出てくるのが面白い。一方で、もちろん昔のスターさんは皆おそろしく多産だったので、典型から外れたキャラを演じた例もまた無数にあるのだが。

ラージクマールはそもそもデビュー作 Bedara Kannappa (Kannada - 1954) Dir. H L N Simha がバクティ映画だった。伝記によれば、生涯出演作のうちの21本がミソロジカル、18本がディヴォーショナルだという。NTRの神話映画は、デビューから30本目にあたる Mayabazar (Telugu - 1957) Dir. K V Reddy でクリシュナ神を演じたのが始まり。ナンダムーリ家ファンクラブ・サイト上の伝記によれば、生涯全出演作のうち42本がミソロジカル(文脈から、これにはディヴォーショナルも含まれるようだ)で、そのうちクリシュナ神役が17本もあるという。

シヴァージだけが、本数の面から見ると値が小さい。最初の神話映画というのもあまりはっきりしないが、党内権力闘争に巻き込まれDMKから除名された1957(1956?)年以前にはなかったものと思う。筆者が自分の目で確かめた中で最も古いものは Shampoorna Ramayana (Tamil - 1958) Dir. K Somu だが、ここでは主演ではない。60年代に入ってからの Sri Valli (Tamil - 1961) Dir. Ramanna でのムルガン神役が初主演だろうか。しかしこれはあまり当たらなかったという。大成功を収めたのは Karnan (Tamil - 1964) Dir. B R Panthulu によって。神話映画の確定的なリストは色々調べても見つからなかった。仕方がないのでファンクラブ・サイトの中のフィルモグラフィーのタイトルとイメージから洗い出し、自伝をはじめとして何種類かあるシヴァージの伝記、ウィキペディアの作品別エントリーや共演女優の伝記などの記述に目を通し、YouTube上の断片動画で裏を取るという迂遠な方法によって絞り込んだ(こちらのファンサイトにもかなりお世話になった)。

以下が特定できた全13本、うち2本はテルグ映画へのゲスト出演。他に Kathavarayan (Tamil - 1958) Dir. T R Ramanna というのが判断に迷う内容なのだが、未見なので保留とした。見落としもあるかもしれないが、後から出てきたとしても本数が倍になることはないだろう。ともかく、たったこれだけの短いリストにとんでもない手間がかかった、疲れた〜。

Shampoorna Ramayana (Tamil - 1958) Dir. K Somu
Sri Valli (Tamil - 1961) Dir. Ramanna
Karnan (Tamil - 1964) Dir. B R Panthulu
Thiruvilaiyadal (Tamil - 1965) Dir. A P Nagarajan
Maha Kavi Kalidhas (Tamil - 1966) Dir. R R Chandran
Saraswathi Sabatham (Tamil - 1966) Dir. A P Nagarajan
Kandhan Karunai (Tamil - 1967) Dir. A P Nagarajan
Thiruvarutchelvar (Tamil - 1967) Dir. A P Nagarajan
Thirumal Perumai (Tamil - 1968) Dir. A P Nagarajan
Harischandra (Tamil - 1968) Dir. Cheyyar Ravi
Raja Rishi (Tamil - 1985) Dir. K Shankar

Bhakta Ramadasu (Telugu - 1964) Dir. Chittoor V Nagaiah ※ゲスト出演
Bhakta Thukaram (Telugu - 1973) Dir. V Madhusudhan Rao ※ゲスト出演

こうして見ると、多くが1960年代制作で、しかも神話映画の名手と言われたAPナーガラージャンの手になるものが5本もある。

筆者はこのうちの8本を鑑賞したが、嫌でも気づかされるのはマハーバーラタ、ラーマーヤナといった汎インド的な神話を題材にしたものが少なく、ムルガン神をはじめとしたタミル固有の神格の登場するものが多く、また叙事詩のエピソードよりは本作のように説話的なストーリーラインが目立つということ(実際にタミル語で記された中世の説話に基づいたものもいくつかある)。例外はラーマーヤナに忠実な Shampoorna Ramayana と、マハーバーラタのエピソードからとった Karnan などなのだが、前者ではシヴァージはバラタという脇役での出演、後者は通常悪役として描かれるカルナに光を当てた異色作で、やはりどちらも正史の王道からはちょっと外れている(※)。つまり南印全体としては古典期といっていいだろう時期に、タミルの神話映画はすでに充分に土着化したものになっていたのではないか、そしてそれがその後の神話映画の変遷にも影響したのではないかということが推察されるのである。その後1970年代に入ってジャヤラリタをはじめとする6大女優の共演で大ヒットした Adi Parasakti (Tamil - 1971) Dir. K S Gopalakrishnan 以降、タミル神話映画は急速に土俗的な女神映画へと傾斜して行くのである。そしてそこにはナーラダ仙の介入する余地はあまり残っていなかったものと思われる。  

※最も汎インド的なストーリーラインに沿った主演作は Harishchandra (Tamil - 1968) Dir. K S Prakash Raoということになるだろうか。これは先行作品としてラージクマールのカンナダ版、NTRのテルグ版なども(さらに他にもいくつか)あり、見比べが大層面白い。ただしシヴァージのタミル版はどうした訳かあまりヒットしなかったという。

そうだナーラダ仙の話をしてたんだった。

本作でのシヴァージのナーラダ仙は、上で述べたようなシヴァージのスクリーン人格である、朗らかさ、向日性、観客を思わずニッコリとさせてしまう「メリーモナーク」ぶりが存分に発揮されていて楽しい。浮かれ歩く天界のいたずら者のアイコンとして永遠に焼き付けられたと言ってもいいだろう。ただ、それだけではシヴァージのヒロイズムを求める観客を満足させられないと制作者は考えたようで、後半に三つ巴で競い合う人間の1人としてダブルキャストしたのだな。そして喧嘩両成敗(三成敗か)でありながら、ストーリーの結末もシヴァージ演じる詩人にやや有利な形で終わることとなった。ハードコアなシヴァージ・ファンの人には怒られるかもしれないが、これによって微かにバランスがふれたと筆者は考える。でありながら、完全に傾いてしまうことを免れたのは、やっぱり信じられないくらいに豪華な他のキャストの力が大きかったと思う。

特に、女王様役のKRヴィジャヤでしょう。

デビューから3年目でまだピチピチの若手ヒロイン。女神役の女優達と並び立ったときのすらりとした体躯を見ると、いまやほとんど死語となった「体位の向上」なんてフレーズが浮かんでくる。そして神話映画のものとは思えないようなスタイリッシュな衣装を纏っての身のこなしの優雅なこと。キャンキャン吠えるアホの子ちゃんぶりが愛おしい。ハッキリ言って後半はKRヴィジャヤ・ショーなんだよ。

上にも書いたように、本作の結末はシヴァージの演じる詩人をやや持ち上げるように出来ていて、富と権力を手にしたKRヴィジャヤの女王はほとんど悪役と言ってもいいくらいのキャラ造形なんだけど、否応もなくこの悪い子を応援したくなる、もしかしてこれは制作者の意図したものとは違っているのかもしれないが。

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豚と言われても犬と言われても、おいらやっぱし女王様についていきてえよ。

投稿者 Periplo : 21:38 : カテゴリー バブルねたtamil
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2012年05月15日

5月のJ-テルグ:その2

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Gabbar Singh (Telugu - 2012) Dir. Harish Shankar

原題:గబ్బర్ సింగ్/గబ్బర్సింగ్
タイトルのゆれ:Gabbarsingh, Gabber Singh
タイトルの意味:主人公の名前、『』の悪役の劇中名と同じである訳なのだが、深い意味があるのかね

Cast: Pawan Kalyan, Shruthi Haasan, Ajay, Suhasini, Abhimanyu Singh, Nagineedu, Kota Srinivasa Rao, Rao Ramesh, Brahmanandam, Ali, Tanikella Bharani, Gayaturi Rao, Malaika Arora

■日時:2012年5月20日、13:00開映予定(16:00終映予定)
■料金:大人2200円、子供1200円(当日券)
■字幕:なし(万が一字幕付きだったらゴメンナサイ)
■会場:埼玉県川口市、SKIPシティ、彩の国ビジュアルプラザ http://www.skipcity.jp/access/
■映画公式サイト:http://www.gabbarsinghcinema.com/
※ 前売り料金・家族チケット・予約方法など上映に関しての詳細は、主催者公式サイトhttp://www.indoeiga.com/を参照のこと
■参考レビュー集成:http://periplosjottings.blogspot.jp/2012/10/screening-of-gabbar-singh-in-japan.html

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またしても急転直下で大慌て。盛会だった5月5日の前回上映時には、期待のハエ映画 Eega を6月上旬に掛けるだろうということが予告されてたので、そのつもりでこっちも着々準備してたのに、ここに来てまさかの月内2度目の上映告知。ギリギリ1週間前に。

なんで、とるものもとりあえずの案内しか出来ないけど、別に特段予習が必要な作品とも思えない。まあ、気楽に行こう。

2010年に大ヒットした、サルマーン・カーン主演の Dabangg (Hindi - 2010) Dir. Abhinav Singh Kashyap のリメイク。昨年末には一足早くタミル・リメイク Osthe (Tamil - 2011) Dir. S Dharani も公開されている。

正直なところ、最初は筆者はどちらのリメイクにも関心がなかった。オリジナルの Dabangg が、あまりにもエンターテインメントとして完成されすぎていて、どこをどういじっても改悪にしかならないだろうという気がしていたので。特にその本質であるユーモア(もちろんDVDショップの分類では本作はアクション映画だろうし、それは間違いではないのだが)が、精妙といっていいくらいのバランスの上に成り立っていて、何かひとつでも要素を入れ替えたり配分を変えたりしただけで、没個性で古ぼけたB級作品に堕してしまいそうに思えたので。

しかしこの Gabbar Singh、今月11日に現地で公開されてみると思いのほか好評なのだ。何がそんなに良かったのか、ローカライズが巧みに行われたのか、パワン・カリヤーンが踏ん張ったのか、かなり気になってきた。

監督の ハリーシュ・シャンカル は本作が第3作目、まだ新進と言っていいだろう。デビュー作 Shock (Telugu - 2006) では、バイオレントなスリラーを手堅くまとめあげていた。第2作目 Mirapakaay (Telugu - 2010) はこぢんまりとしたアクション映画だったが、むしろユーモアが印象に残った。

宇宙スターの娘、シュルティ・ハーサンには説明は特に要らないだろう。久しぶりのサウス出身の大型新人女優だが、色んな意味で話題を振りまきながらも今のところ大ヒットは飛ばしてないんだよね。本作がさらなる飛躍への足がかりになるかどうか。

音楽はデーヴィ・シュリー・プラサード、すでにオーディオCDはヒットしているようだ。スタントはこの前の Dammu と同じラーム&ラクシュマンの兄弟コンビ。

主演のパワン・カリヤーンについても「説明不要」で済まそうかとも思ったが、せっかくの日本上陸だし、少しぐらいは書こう。1971年生まれ、メガスター・チランジーヴィのかなり歳の離れた弟で、冠はパワースター。Akkada Ammayi Ikkada Abbayi (Telugu -1996) Dir. E V V Satyanarayana でデビュー。これはコケてしまったものの、次作以降は順調に伸び、Tholi Prema (Telugu - 1998) Dir. Karunakaran の大ヒットでユース・アイコンとも言える地位を獲得した。90年代後半というのは微妙な時期で、業界の二大巨頭チランジーヴィとバーラクリシュナはアラフォーとなっており、マヘーシュ・バーブとジュニアNTRはデビューしていなかった。自分たちと同世代の俳優を、そしてキレのあるアクションで魅せてくれるようなスターを求める若い男女の映画ファンの欲求に、パワンはある時期ほぼ独りで応えてたんだな。今日、芸能生活も15年を超え、スター勢力地図も随分変わったけど、その時代からのカリスマ的な動員力はまだ衰えてはいない。

やはり先日川口で新作が上映されたシッダールトの過去作品に Oy! (Telugu - 2009) Dir. Anand Ranga というロマンスものがある。色々と期待させる要素はあったのだが尻すぼみな感じに終わってしまった一品なのだけれど、ひとつだけ忘れられないシーンがあった。訳あってカルカッタに向かうヒーローとヒロイン。訳あってヒロインは、これまでやりたくてもやれず我慢してきたことを、ヒーローの力を借りてひとつずつ実現しようとする。そのひとつが「パワン・カリヤーン映画を初日に観る」なのだ。カルカッタの町中で偶然にもパワン主演作の封切りを告げるポスター(ベンガルにはテルグ系の住民も割といるのだ)を目にする2人。「初日に飛び込みじゃチケットはとれないわよね」と躊躇うヒロインに、「ここはアーンドラじゃなくてカルカッタだぜ、楽勝よ」と安請け合いするヒーロー。劇場に着いて2人が目にしたものは…。

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今週末の上映、実は客席の反応もまた見どころのひとつなのだ。自然発生マサラシステムが作動するかどうか、楽しみだあ。

(万が一、お通夜みたいな上映だったらゴメンナサイ)

投稿者 Periplo : 10:58 : カテゴリー バブルねたtelugu
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