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2012年06月24日

Project 2011: その1

2008年2009年2010年に引き続き4回目、ずれたタイミングでお送りするマラヤーラム映画のアニュアル回顧シリーズ。

traffic2011.jpg

それは Passenger (Malayalam - 2009) Dir. Ranjith Shankar あたりから何となく見えてきていたのだった。Cocktail (Malayalam - 2010) Dir. Arun Kumar でおずおずと予言めいたことを書いたりもしたんだけど、まだためらいもあった。それが2011年に一気に来たという感じだ。まるで鹿威しに水が満ちてカッコーンとひっくり返るように。この2011年にマラヤーラム映画の様相がかなり大きく変わってしまったように思えるのだ。

何がどう変わったかを説明しようとして、脱二大巨頭、脚本重視、都会志向、ジャンル映画化、ヤング群像、ミニマリズム、スタイリッシュ志向、脱演芸会臭、スリラー盛行、中産階級的価値観、同時代への批評…etc.色々な言葉が渦を巻いて頭が爆発しそうになったんだけど、簡潔に最低限の定義をすると、「クレバーな映画」への指向がはっきりとしてきた、ということだと思う。

こう書くと何もかもがひっくり返ってしまったかのようだが、冷静に個々の項目を検討すると、以前から言われてきたマ映画の特色とされるものを並べただけのようにも思えて混乱する。本当に一番大きく変わったのは、二大巨頭中心からヤングの団体戦に、田舎呑気から都会の無情に、ってとこかな。

ともかくこの流れはインテリ寄りの観客には大層歓迎されているようで、「80年代マ映画黄金時代の再来」とまでハシャいでいる面々も見受けられる。しかし、これで本当に80年代のように観客が映画館に押し掛けるようになるのだろうか。結論を出すにはもう少し観察を続ける必要がありそうだ。

ガイジンの感傷としては、この変化は必ずしも諸手を上げて歓迎できるものではない。タミルでもテルグでもヒンディーでもなく、なぜマ映画を観るのかといえば、やはりそれは二大巨頭のアイドルぶり&村のチャイ屋やトディ屋でのドーティ親爺達のにゃあにゃあ政談が楽しいというのが大きかったのだ。ケララの衆にとっては、マラヤーラム語で作られている限りそれは「我らの映画」なのだろうけど、首にカメラぶら下げた観光客にとっては「やっぱカタカリは観たいよ」となるのはしょうがないじゃん。

地方色が薄まった「よくできた映画」というだけならわざわざ苦労してマ映画を観る必要もなくなりそうではあるのだが、それでも筆者はまだまだ付き合って行くつもりだ。やはりここまで深く入れ込んでしまうと、自分の好みとは違う方向に進んでいるようだというぐらいの理由では見限ってしまうことができないのだ。マ映画とケララ社会がどこに行こうとしているのか見届けたい気持ちがある。より積極的な理由としては、マ映画芸達者脇役(&主役)軍団が新しいフェーズにどんな活躍を見せてくれるかが楽しみなのだ。

ということで、もしかしたらこの先引っ込めてしまうことがあるかもしれないが(ここまで書いてもまだ自信がない)、マラヤーラム・ニューウェーブという言い方をこのシリーズでは使ってみようかと思う。

以下に、2011年に公開されたマラヤーラム語(吹替え除く)長編劇映画88本の内の約半数、45本を駆け足で振り返る。今年も例年と同じく秀作・駄作ともに充実していたが、初回は最も2011年的な快作とサイテー映画各一本を取り上げたい。

星5つ

cvTraffic.jpgTraffic

Director:Rajesh Pillai
Cast:Sreenivasan, Kunchacko Boban, Rahman, Vineeth Sreenivasan, Asif Ali, Lena, Sandhya, Roma Asrani, Ramya Nambeesan, Sai Kumar, Shanti Krishna, Vijayakumar, Prem Prakash, Anoop Menon, Namitha Pramod, Anjana Menon, Gauri Krishna, Munshi Venu, Baiju Ezhupunna, Saju Alffingal, Dr. Rony, Santosh Krishna, Sudeep Joshi, Premlal, Manoj, Raj Kumar, Sibi Kuruvilla, Reena Basheer, Fathima Babu, Nisha Sarang

原題:ട്രാഫിക്‌

DVDの版元:Central
DVDの字幕:英語
DVDの障害:特になし
DVDのランタイム:約1時間56分

ジャンル:スリラー
キーワード:ニューウェーブ、グランドホテル、コーチン、パーラッカード、国道47号、公道レース

当網站の関連ポスト:2011.09.27(レビュー)
参考レビュー集成:http://periplo.posterous.com/traffic-malayalam-2011

【寸評】
言いたいことは以前のレビューで大体書いたが、一つだけ付け加えるとしたら、本作のソングシーン(たとえば ♪Pakalin)が恐ろしくクレバーに作られているという点かな。切り詰めたランタイムの中、このソング一曲を挿入することで、無闇と多い登場人物の職業から家庭環境までを圧縮して効率よく説明して大層経済的。ちょっと嫌になるくらいに。

Traffic201102.jpg
シャヒード・カーダル監督によるタミル・リメイク(このキャスティングは興味深い)、ラジェーシュ・ピッライ監督自身による(らしいが未定)ヒンディー・リメイクが進行中という。


星ゼロ

Krishnaynum.jpgKrishnanum Radhayum

Director:Santosh Pandit
Cast:Santosh Pandit, Souparnika, Rupa Jith, Devika, Ajit, Vijayan, Hanif

原題:കൃഷ്ണനും രാധയും
タイトルの意味:Krishna and Radha

DVDの版元:Movie Channel
DVDの字幕:なし
DVDの障害:特になし
DVDのランタイム:約2時間34分

ジャンル:ロマンス&コメディ
キーワード:異教徒間恋愛、ワンマンアーミー、YouTube発ヒット、炎上マーケティング

参考レビュー集成:http://periplo.posterous.com/krishnanum-radhayum-malayalam-2011
YouTube 全編動画:http://youtu.be/_UDI2gOVLww

【寸評】
マラヤーラム映画に関心のある日本人でもこれを観た人はまずいないだろうし、実際に観る必要もないと断言してしまおう。ただ本作の監督・主演・作詞・作曲・プレイバック・美術・衣装・アクション・原作・脚本・制作・編集の全てをこなしたサントーシュ・パンディットという男を巡る数々の現象が、実に新時代的だと思えるので紹介しておきたいのだ。

2011 年3月頃にYouTubeにアップされた本作のミュージカル・シーン ♪Rathri Shubharathri が、コンテンツの貧弱さに対して異様なほどのアクセスを集め(これを書いている現時点で100万超え)、またコメント欄が罵倒で埋め尽くされたことが発端である。程なくしてパンディットはネット上のカルト・ヒーローとなり、10月に本編が封切られて最初の数日はほぼフルハウスとなった劇場もあったという。ネット上と同じく劇場でも観客のほとんどはスクリーンに向かって罵詈雑言と嘲笑いを浴びせるのがもっぱらだった。斜に構えた批評家の中には、メインストリームのマラヤーラム映画への毒のある批判として、超低予算のこのアマチュア作品を二大巨頭出演作よりも優れたものと持ち上げる者も現れた。現地の主要なマスコミはほとんど全てがインタビューやパネルディスカッションにパンディットを登場させた。その作品の質と興行成績のアンバランスへの批判に対して、彼は「自分の映画を見たいと思った人だけが劇場に足を運んでくれればいいのだ、自分は誰にも強要はしない」と見事に切り返している。YouTube芸人としてのパンディットの特徴は、タミルのウィルブル・サルグナラージなどとは違い、笑いを取ろうとしてないという点。

詳しくはシヴァラーム・シュリーカンダートによる ManoramaOnline の記事 The Curious Case of Santosh Pandit が要領よくまとめてくれているので、そちらをご参照いただきたいが、なんというか、ケララへの本格的な大衆消費社会の到来を物語るような、極めて象徴的な現象に思えて仕方がないのだ。伝統的な口コミと並んでネットの情報が興行に影響を与えるようになったということ。鍛え抜かれた玄人の芸を味わうためではなく、神のごとき名優を仰ぎ見るためでもなく、イタい素人を嘲るために金を払って劇場まで赴く観客が多出したという点。多くの観客が心の奥底で抱いてはいても普通は実行にうつすまでにはいたらない映画出演の願望を図々しく自分で叶えてしまう奴が出てきて、その代わりにフラストレーションの捌け口として一般人はそいつには何を言ってもいいという構図。これを新時代と言わずして何と言う?

KrishnanumRadhayum.jpg
もちろん、成功したマラヤーラム映画の常として、タミルとヒンディーの吹替え版も製作されたという。さらに英語吹替え版も作られるらしい。

投稿者 Periplo : 16:21 : カテゴリー バブルねたkerala

コメント

Pandit film gets lukewarm response

Pandit announced his next film, Jithubhai enna chocolatebhai straightaway. But the title was registered by someone else.

The film got released recently with the title Superstar Santosh Pandit.

But this time he failed to set the cash registers ringing. As per reports, the film that got released in more than 20 theatres, has been given thumbs down by the viewers.

Pandit was opposed vehemently by the film industry when he came with his maiden film. This created interest in the minds of people. But when everyone decided to ignore him, Pandit could not repeat his magic!
http://www.tikkview.com/e-news/155-malayalam/1990-pandit-film-gets-lukewarm-response

投稿者 Periplo [TypeKey Profile Page] : 2012年08月15日 02:43

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