« 2013年07月 | メイン | 2013年09月 »

2013年08月31日

資料系アップデート:1308

cvDrAkkineni.jpgLiving Legend Dr.Akkineni

編者:M K Ramu
版元:Rasamayi Publications (Hyderabad)
発行:2002年(初版)
版型:A5版
頁数:205
主な販売サイト:D K Agencies、ただしここはアマゾンのような便利なサービスではないので取り寄せには相当の時間が必要、また価格も異なることがあるので注意
定価:Rs.275-(インド国内)、$20-(インド国外)

「生ける伝説」の看板に偽りはなし。ハイダラーバードの文化団体 Rasamayi が、アッキネーニ・ナゲーシュワラ・ラーオ(以下ANR)の業績を讃えるため1998年に開催したセミナーの成果を集成した一冊。

インドの俳優の評伝と称するものに過大な期待をしないように慣らされているので、本書を手にとっても大きな失望はなかった。200ページ超もある本書、プロの書き手がきちんと調査して書きおろしたものならば大変に価値あるものとなっていたと思うが、本書はセミナー参加の10人ほどの文化人が思い思いの形式で賛を寄せているのを集めただけのものなので、重複や食い違いが多く、また誤植も散見される。勿体ないな~。

まあそれでも、籾殻の山に紛れ込んだ米粒を拾いだすように、抽象的で大げさな美辞麗句から実質的な情報を辛抱強くピックアップして行く作業は決して無駄ではなかったと思う。

ANRは1924年9月20日に、今日のアーンドラ・プラデーシュ州クリシュナー県ヴェンカタラーガヴァプラムに生まれた。9人兄弟の末子だったが、男ばかりの9人のうち4人は早逝したという。5歳の時に父が没し、以後は母プンナンマと長兄ラーマブラフマムによって育てられた。10歳の時、学校の舞台で女役を演じたのが好評を博したため、二人の保護者は彼を学業中断のうえプロの劇団に入門させることにする。劇団の女形として各地を巡業するなかで、映画プロデューサー兼監督であるガンタサーラ・バーララーマイヤーの目に留まり、Seeta Rama Jananam (Telugu - 1944) Dir. Ghantasala Balaramaiah でヒーローデビューする。プレイバック・シンガーの制度が確立する以前だったため、ソングシーンでは自ら歌いもした。初期の出演作の多くはフォークロア・ジャンルで、1940年代の終わりまでにはフォーク・ヒーローとしての地位を確かなものとしていた。1953年に封切られた Devdasu では、それまでの固定イメージを覆す悲劇的なキャラクターを演じ切り、生涯の代表作となった。無声映画時代から数多くのバージョンが存在する同名小説の映画化作品群の中でも最高傑作とする評者も多い。以降、1949年にデビューしたNTRと共に1950-70年代のテルグ映画界のトップとして君臨した。

妻のアンナプールナとの間に2男3女をもうけ、長男ヴェンカトはANRが創立したアンナプールナ・スタジオの実質的なトップ、次男ナーガールジュナは俳優となった。孫の世代ではスマント、ナーガチャイタニヤ、スシャントの3人が若手スターとして活躍している。

少年期に充実した教育を受けることができなかったのは、その後の人生の数々の局面で彼を苦しめた。それを埋め合わせるかのように、功成り遂げた後には教育事業に多額の寄付や投資を行った。また、テルグ映画界の本拠地のマドラスからハイダラーバードへの移転に関しては最も先鋭的な旗振り役で、1963年に他に先んじて自らのオフィスの引っ越しを敢行している(一方、NTRはマドラスにかなりの未練があったようで、この件に関しては遅れをとってしまったが、80年代に州首相となってからは積極的に移転政策を後押しした)。

神よりもヒューマニティを信じる、と公の場ではっきりと言明しており、一般には無神論者と見なされている。

自らの過去の業績を汚さないため、との理由から2000年ごろに引退状態(ただしTVシリアルには出演を続けていた)となったが、その後復活し、Chukkallo Chandrudu (Telugu - 2006) Dir. Siva Kumar では、シッダールト&プラブ・デーヴァーと共にダンスを披露するなど健在ぶりをアピールした。今現在の最新出演作は Sri Rama Rajjyam (Telugu - 2011) Dir. Bapu となる。

以上に書いたようなことは、それでもネット記事などを丹念に調べれば把握できるかもしれない。本書の一番のお宝は、セミナー参加者によって選ばれ、解説を加えられた「ベストロール35」ということになるだろう。初期にはフォークロアも神話も見事に演じていたANRだが、自らの芸風を冷静に見極めた末にソーシャル中心にシフトしていったということがこのリストからも見て取れる。筆者は現在この全部を潰すには程遠いところにいるが、それでもこれまでに鑑賞して強く感銘を受けた作品のかなりがリスト中に含まれているのを見て心強く思った。鬱蒼としたサウス古映画の密林に分け入っていくには、当てずっぽうよりは何らかの道案内があったほうがやはり良いと思う。そんな理由からリストの作品名のみを以下に書き出してみた。

1.Devadasu (Telugu - 1953) Dir. Vedantam Raghavaiah ジャンル:ソーシャル
2.Vipranarayana (Telugu - 1954) Dir. P S Ramakrishna Rao ジャンル:ディヴォーショナル
3.Ardhangi (Telugu - 1955) Dir. P Pullaiah ジャンル:ソーシャル
4.Donga Ramudu (Telugu - 1955) Dir. K V Reddy ジャンル:ソーシャル
5.Tenali Ramakrishna (Telugu - 1956) Dir. B S Ranga ジャンル:フォークロア
6.Bhookailas (Telugu - 1958) Dir. K Shankar ジャンル:神話
7.Chenchu Lakshmi (Telugu - 1958) Dir. B A Subba Rao ジャンル:神話+フォークロア
8.Jayabheri (Telugu - 1959) Dir. P Pullaiah ジャンル:歴史
9.Illarikam (Telugu - 1959) Dir. T Prakash Rao ジャンル:ソーシャル
10.Namminabantu (Telugu - 1960) Dir. Adurthi Subba Rao ジャンル:ソーシャル
11.Mahakavi Kalidasu (Telugu - 1960) Dir. Kamalakara Kameswara Rao ジャンル:歴史
12.Velugu Needalu (Telugu - 1961) Dir. Adurthi Subba Rao ジャンル:ソーシャル
13.Bharya Bhartalu (Telugu - 1961) Dir. Kotayya Pratyagatma ジャンル:ソーシャル
14.Batasari (Telugu - 1961) Dir. P S Ramakrishna Rao ジャンル:ソーシャル
15.Iddaru Mitrulu (Telugu - 1961) Dir. Adurthi Subba Rao ジャンル:ソーシャル
16.Aradhana (Telugu - 1962) Dir. V Madhusudhan Rao ジャンル:ソーシャル
17.Manchi Manasulu (Telugu - 1962) Dir. Adurthi Subba Rao ジャンル:ソーシャル
18.Mooga Manasulu (Telugu - 1964) Dir. Adurthi Subba Rao ジャンル:ソーシャル
19.Amarasilpi Jakkanna (Telugu - 1964) Dir. B S Ranga ジャンル:歴史
20.Doctor Chakravarti (Telugu - 1964) Dir. Adurthi Subba Rao ジャンル:ソーシャル
21.Navarathri (Telugu - 1966) Dir. Tatineni Rama Rao ジャンル:ソーシャル
22.Manase Manthiram (Telugu - 1966) Dir. C V Sridhar ジャンル:ソーシャル
23.Sudigundalu (Telugu - 1968) Dir. Adurthi Subba Rao ジャンル:ソーシャル
24.Buddhimantudu (Telugu - 1969) Dir. Bapu ジャンル:ソーシャル
25.Dharma Daata (Telugu - 1970) Dir. A Sanjeevi ジャンル:ソーシャル
26.Dasara Bullodu (Telugu - 1971) Dir. V B Rajendra Prasad ジャンル:ソーシャル
27.Prem Nagar (Telugu - 1971) Dir. Prakash Rao ジャンル:ソーシャル
28.Bhakta Tukaram (Telugu - 1973) Dir. V Madhusudhan Rao ジャンル:ディヴォーショナル
29.Mahakavi Kshetrayya (Telugu - 1976) Dir. C S Rao ジャンル:歴史
30.Yedanthastulameda (Telugu - 1980) Dir. Dasari Narayana Rao ジャンル:ソーシャル
31.Premabhishekam (Telugu - 1981) Dir. Dasari Narayana Rao ジャンル:ソーシャル
32.Megha Sandesham (Telugu - 1982) Dir. Dasari Narayana Rao ジャンル:ソーシャル
33.Bahudoorapu Baatasari (Telugu - 1983) Dir. Dasari Narayana Rao ジャンル:ソーシャル
34.Sitaramayyagari Manavaralu (Telugu - 1991) Dir. Kranthi Kumar ジャンル:ソーシャル
35.Pandaga (Telugu - 1998) Dir. Sarath ジャンル:ソーシャル

上に書いたように、筆者はこの全部を潰すには程遠いところにいるが、一番の有名作 Devadasu の陰に隠れている翌54年の Vipranarayana についてだけは一言書きたい。このヴィシュヌ派宗教詩人は、8世紀のタミル地方に実在した人物であり、遊女からの誘惑を受けながらも信愛の道を貫いたというエピソードは、映画や演劇を通じて現地の観客の間では知られているものであるようだ。散漫な本書の中でも多くの評者がこれに言及している。

本作ではその遊女の役をバーヌマティー(下のイメージは別作品のもの)が演じる。一切世界を善なるものとしか見ることのない坊さんと、実利も快楽も関係なく坊さんを堕とすことだけを自らに誓った遊女との静かで息詰まる対峙。こんなに興奮した宗教映画は他になかった。この二人の高まって行くせめぎあいの描写があまりにも官能的なので、ラストシーンの懺悔や改悛といった通俗的な慣用句への着地を激しく憎みそうになったほどだ。

神話映画の傑作 Bhookailas や、ソーシャルというにはあまりに幻想的な Navarathri など、他にもマスターピースはあるが、ここでは日本のファンの間でもほとんど知られていない Vipranarayana をまずは推しておきたいと思う。

Vipranarayana1.jpgBhanumathy.jpg
vipranarayana2.jpg

投稿者 Periplo : 22:24 : カテゴリー バブルねたtelugu
| コメント (0)

2013年08月20日

PJ2012-28:Thappana

Thappana1.jpg
こっ、これは…。ケララ版一本刀土俵入りってやつか?それとも還暦土俵入り…(違う)

Thappana

Director:Johnny Antony
Cast:Mammootty, Charmi Kaur, Murali Gopi, Suresh Krishna, Guruvayoor Sivaj, Vijaya Raghavan, Ponnamma Babu, Mala Aravindan, Kalabhavan Shajon, Vijeesh, Sajitha Betti, Sadiq, Anil Murali, Irshad, Kottayam Nazir, Geetha Vijayan, Abu Salim

原題:താപ്പാന
タイトルの意味: decoy elephant
タイトルのゆれ:Thaappaana, Thaappana

DVDの版元:AP International
DVDの字幕:英語
DVDの障害:一部ストップする箇所あり
DVDのランタイム:約2時間9分

ジャンル:人間ドラマ
キーワード:ムショ帰り、復讐、ポッラーッチ、カンヌール、山間の僻村

参考レビュー集成:http://periplosjottings.blogspot.jp/2013/03/thappana-malayalam-2012.html

お勧め度:★★★★☆

Thappana4.jpg

【寸評】
能天気な独り者のコソ泥サムソン(Mammootty)はいつものお勤めを終えてカンヌール監獄から出所するが、偶然同時に女囚房から出てきたメーリクッティ(Charmi)の沈鬱ににただならぬものを感じる。成り行きから彼は、メーリクッティが夫のもとに戻るのに付き添うことにする。しかし辿りついた山間の僻村ではショッキングな出来事が待っていた。

しばらく前に当シリーズで紹介したシリアスなミステリー、Masters と同じジョニー・アントニーの監督作だが、本作は打ってかわってのユーモア人情譚。こちらが本来のアントニー節だ。マンムーティが演じるのは、すでに一つの型になっていると言えるかもしれない「お人よしで呑気でお節介な熟年ブルーカラー野郎」。パターンを踏んではいても、丁寧に作られ心をこめて演じられているものは、観ていて大変に心地よい。

Thuruppu Gulan (Malayalam - 2006) 以来、ジョニー・アントニー監督は最低でも一曲「マンムーティを踊らせる」というチャレンジを自らに課しているようで、本作でも ♪Oorum Perum Parayathe というナンバーでメガスターの華麗なステップが披露されている(楽曲としてもヒットとなったようだ)。完全に裏取りはできていないが、振り付けはディネーシュ・クマールが担当したようだ、ご苦労さんです。

なお、タイトルの「ターッパーナ」とは、里に下りてきて農作物を荒らしたりする野生象を制御するため差し向けられる訓練された象をさす言葉。通常は調教されやすい雌象が(群れが雌象を中心に作られるということもあり)この任にあたるという。本物の象は一切登場しない本作のタイトルにこの語があてられた理由はいま一つ良く分からない。

Thappana2.jpgThappana3.jpg
Aagathan (Malayalam - 2010) Dir. Kamal に続き二本目のマラヤーラム映画出演となったチャールミー。テルグ映画ではこれまでは基本的にセクシー路線でやってきたけど、ここのところちょっと太っちゃって出演作も減ってきている(まだ20代だってのにさ!)のが残念なところ。でもマ映画ならまだまだ行けるね。陰のある人妻役、汚れ衣装で化粧っ気がなくてもこんなに可愛い。ソングシーンではコスプレで華を演出するあたり、製作者はよく分かってると思ったよ。

投稿者 Periplo : 21:14 : カテゴリー バブルねたkerala
| コメント (0)

2013年08月09日

PJ2012-27:Thiruvambadi Thampan

ThiruvambadiThampan1.jpg

Thiruvambadi Thampan

Director:M Padmakumar
Cast:Jayaram, Haripriya, Nedumudi Venu, Jagathy Sreekumar, Thambi Ramaiah, Kishore, Suraj Venjharamoodu, Kalabhavan Mani, Sreejith Ravi, Majeed, Kalabhavan Shajon, Sadiq, Nandhu, Pala Charlie, V K Sreeraman, Jayaprakash, T G Ravi, Babu Namboothiri, Manraj, Anil Murali, Samuthirakani, Sudheer Karamana

原題:തിരുവമ്പാടി തമ്പാൻ
タイトルの意味:主人公の名。ティルヴァンバーディが家名だが、これはトリシュールに実在するクリシュナを祀る有力寺院の名前でもある。タンバンは語源的には「弟」を意味するものらしい。
タイトルのゆれ:Thiruvambadi Thamban, Thiruvambaadi Thambaan

DVDの版元:Central
DVDの字幕:英語
DVDの障害:特になし
DVDのランタイム:約2時間43分

ジャンル:ファミリー人情スリラー
キーワード:象、トリシュール、マドゥライ、クリスチャン、寺院の大祭、グーンダ、ビハールの象市、訛りで人物特定

参考レビュー集成:http://periplosjottings.blogspot.jp/2013/03/thiruvambadi-thampan-malayalam-2012.html

お勧め度:★★☆☆☆

【寸評】
冒頭の謝辞にトリシュールのヒンドゥー教、キリスト教の名刹がズラズラ連なって壮観。

今日、聖トマス像の(ヒンドゥー寺院の祭りでの)練り廻しこそ絶えてしまったが、村々では(ヒンドゥー、クリスチャンに)共通する神話や祭事に古くからのシンクレティズムが残っている。北ケララのトリシュールでは、毎年行われるプーラム祭で寺院の象たちに白い茎についたココナツの芽を食べさせるという名誉ある役目を担うのは、いまだにほとんどが在地のクリスチャンである。(William Dalrymple 、Sisters Of Mannarkadより、勝手訳)

これまでにも書いたことではあるけれど、ケララの衆の象好きっていったら、まあ尋常じゃない。日常生活で象に接する機会の多さでもインド一なのじゃないだろうか。現在でもコーチンのような都会にあってすら、特定の季節に象が一般家庭で「門付け」することは珍しくないし、インターネットには愛象家サイトまである。ケララの象は、祭事用に飼われている寺院の象と、山間部での労役用に飼われているものがメインで、他に自然保護区には野生の連中もいる。そして、ケララ象文化を代表する二つの表徴が、グルヴァユール寺院の象園、そしてトリシュールのヴァダックンナーダン寺院の例大祭であるトリシュール・プーラムだ。

それから象が重要な役割を担う映画作品も目立つ。「象映画」(aanakkadha)というジャンルでくくってもいいくらいじゃないか。ちなみに、象映画で一番有名なのは、グルヴァユール寺院に実在したカリスマ巨象・ケーシャヴァンをとりあげた Guruvayur Kesavan (Malayalam - 1977) Dir. Bharathan ていうのだ。

ケララ芸能界きっての象好きで知られるジャヤラーム(グルヴァユール寺院象園に自家用象を寄進しているという)が主演で、トリシュール・プーラムで象の世話をする誉れあるクリスチャン家系の当主を演じるというのだから期待は否応にも膨れ上がった。

しかし象映画+御館様映画としての見せ場は冒頭の数分のみ。先々代の回想シーンだけなんだ。それ以外はいつものジャヤラームのドタバタ・ホームコメディとタミル人を悪者にした州境アクションもどきのミックス。以前についでで紹介したことのある Vaasthavam (Malayalam - 2006) からはじまり、Kerala Cafe (Malayalam - 2009) の短編、そしてShikkar (Malayalam - 2010) と、パドマクマールの監督作は辛辣でヒリヒリとした語り口が魅力的で新作を待ちわびていたのだが、ちょっと空振り。次回作に期待したい。

全体的にイマイチな本作、どーでもいい末梢的な部分に目が行った。ひとつは、親分の号令一下、鎌を片手にどこにでも切り込みにいくグーンダの皆さんが、スマホを使ってるという点。初めて見たよ。さすが豊かなタミルのヤクザさんだ。それからふたつ目は、このイメージ。多分これは意図的にしつらえたんじゃなくて、たまたま映り込んでしまったものだと思う。象にしろなんにしろ、ケララの衆はど~んとデカいものに惹かれる部分があるんだろうかね。まあ、この問題については本シリーズでこの先紹介する「デブ映画」のところで掘り下げてみたいと思っている(駄法螺)。

ThiruvambadiThampan2.jpg
’カバディ・コーチ’キショールの強面も活かされたとは言い難かった。

投稿者 Periplo : 21:04 : カテゴリー バブルねたkerala
| コメント (0)